演奏会レポート「第28回現音作曲新人賞本選会」〜坪能克裕

第28回現音作曲新人賞本選会

第28回現音作曲新人賞本選会表彰式

〈現音・特別音楽展2011〉「世界に開く窓」が11月24日、東京オペラシティ・リサイタルホールで開催された。

「古往今来」として第1部が「第28回現音作曲新人賞本選会」で、第2部が「世界に開く窓」の、二部構成だった。

前半に、若い作曲家の作品を並べた。これから世界に羽ばたいて行く四作品だ。そして後半は、世界で活躍している作曲家諸氏の作品だ。その第2部では“訳あり”作品という面白い副題が付いていた。それは「もっと演奏したいのになかなか演奏できない作品」という意味だそうだ。確かに松平頼曉作品の舞台にオートバイなど、ホールだけでなく警察・消防と許可の申請も大変で、なかなか叶うことがない作品だ。私はグラーツでの演奏を直接聞かせていただいた。もう40年も前のことだ。

ジョルジュ・アペルギス、マウリシオ・カーゲルの作品に続き、南聡、山本裕之、松平頼曉作品が上演された。松平作品ではトラブルもあったようだが、演奏家の熱演で満席の会場は満足の拍手に包まれていた。

聴衆の何人かは「ゲンオン、ど〜なっちゃってるの?凄い作品と演奏で!若い作曲家の方がオーソドックスに見えますよねェ」だって。

その出品者のひとり、山本裕之氏も審査に加わり、野平一郎氏、そして審査員長に近藤譲氏を迎えて「現音作曲新人賞本選会」が第1部で開催された。その第2部に比べたらオーソドックスな作品だそうだが・・・

旭井翔一《水曜日の夢》
音に対する勘所の捉え方が優れている。コントラバスがなかを取り持ち、フルート・オーボエが紡ぎ合って行く。音と格闘したような痕跡もあり、また雲上に光が満ち溢れ解き放たれたアンサンブルもあり、以後の作品でどう発展して行くか楽しみだ。

渋谷由香《不均等音律による6つの風景2》
耳も、頭も、作品力もいい人だと思った。微妙な音の揺れを聴き分けている。しかもその中の美しさに出会っている。ただ“微分音”は従来の基音からの概念であり、自立した微分の今日的な意味が際立たないと説得力が乏しくなる。微分音を基にして楽器本来の調弦も超える世界を聴いてみたい気がした。

酒井信明《Nana》
ピッコロ、ヴァイオリン、バスーンという面白い組み合わせの作品。なかなかまとめにくいのに、雄弁な音世界が伝わってくる。聴かせられてしまうところが憎い。その手腕は大切だが、仕掛けがそんなに変わっていないことは気になるところ。点をなぞり、絵が浮かび上がる効果も面白いが、演奏により浮かぶ絵が多面的である仕掛けの方が、今後の可能性は開かれるはずだ。

松浦伸吾《霧色の虹》
揚羽蝶の羽をデザインするような音楽。ピアノを中央に、左右のヴァイオリンが羽根を拡げて歌が紡がれていく。その羽根の模様が様々に変化して美しい。微細な房が語り始める。なかなかな音楽的な腕があって頼もしい。しかしそこからの飛躍にはもう一段エネルギーがいる。それは左右の羽根が同じようで、異なり、滲んで、独自で、統一感があるようでしかし無い、など可能性が残されているように思うからだ。

新人賞は酒井作品になった。富樫賞は渋谷・松浦両氏が分け合った。また会場での聴衆による投票結果、「聴衆賞」は渋谷氏が受賞した。

レポート:坪能克裕

★本選会の模様は日本現代音楽協会facebookページにて掲載中。